トレーサビリティ

1. 病害を増やす2. 団粒構造の破壊 3. カドミウムリスク4. 硝酸態窒素
5. 地下水河川や海洋汚染6. 枯渇7. 持続可能でない理由

化学肥料を多用することで生じる各種障害について

1. 病害を増やす

化学肥料は即効性であるため、作物は与えられたら順次その栄養分を取り込んで成長していきます。現在の日本農業は化学肥料を多用していますので、過剰なほどの栄養を作物に与えて、作物も過剰な栄養を取り込んでいます。必要以上の栄養分を取り込んでいるため、どっしりとした体形ではなく、ヒョロっとしていたり、ボテっとしていたり、あまり好ましい体形になっていません。人間で例えると肥満や虚弱体質などの状態です。そのような状態はお世辞にも健康とは言えず、やはり病気になりやすくなります。病気の治療や予防のために化学農薬を散布し、栄養を与え、不健康になる、という繰り返しになってしまいがちです。このように、化学肥料を多用すると色々な弊害が生じます。

2. 団粒構造の破壊

日本は雨が多い気候のため、カルシウムなどの塩基類が洗い流され、自然に土壌が酸性に偏ってしまう傾向があります。ここでさらに化学肥料を多用すると、土壌がさらに酸性に傾いていきます。土壌が酸性になってしまうと生じる障害として、団粒構造の破壊が挙げられます。団粒構造の破壊は、団粒構造の形成に働いている多荷電金属が酸化状態から還元状態に移行する際に粘度鉱物と腐植複合物との結合が弱まることが主な原因となっています。団粒構造とは、土の微細粒がいくつかずつ接着されて塊をつくり、その小さい塊が集まってまた塊となり二重三重の塊を構成して出来た構造です。堆肥や牛糞や腐葉土といった有機質と、粘土を含んだ土の混合物の存在がもととなっています。その中で堆肥は地中の微生物により分解されて腐植となり、その腐植が糊のように土の粒子を接着させて塊を作り、団粒土となります。この団粒構造には内部に小さな間隙が、外部に大きな間隙があります。この大きな間隙により、水や空気の出入りがスムースになり、小さな間隙は絶えず水分と肥料成分を保有し、作物の根に供給しています。水ハケのよい性質と水モチの良い性質を兼ね備えている土は、必ず団粒構造が形成されています。農薬を広く使用することで、作物にとって有害な微生物と同時に必要な微生物も死滅させてしまい、団粒構造が形成できなくなり、化学肥料を多用するとこの団粒構造を失ってしまうのです。

3. カドミウムリスク

化学肥料を多様している現在の日本農業の弊害として、カドミウム汚染も挙げられます。カドミウムは亜鉛と併せて産出される重金属です。化学肥料のうち、カドミウムを含有する過リン酸石灰を例にとれば、その原料の輸入リン鉱石には、アメリカフロリダ産では14ppm、モロッコ産26ppm、トーゴー産44ppm、ナウル共和国産80ppmものカドミウムがそれぞれ含有されているといわれています。肥料中における有害な重金属類については許容量が設定されていますが、農薬等による汚染との重複が考慮されたうえで設定されているのか否か、また、有害な重金属類を除去するための努力が行なわれているのか否か、非常に疑問です。このようなカドミウムを含んだ化学肥料により、土壌中のカドミウムは徐々に増加しています。土壌中のカドミウムは、土壌のpHが中性からアルカリ性では難溶であるため吸収されにくいですが、土壌の酸化条件により農作物に吸収、蓄積されます。日本国内の土壌は前述の通り酸性であるためカドミウムの溶け出しやすい環境であり、また化学肥料の多用によってより酸性化が進んでいます。このため食物はカドミウムによる汚染を受けやすい状況にあります。カドミウム汚染された食物を摂取し、体内に蓄積されていくと、腎臓機能に障害が生じ、それにより骨が侵されてしまいます。日本国内ではカドミウムによる環境汚染で発生したイタイイタイ病が問題となりました。またカドミウムとその化合物はWHOの下部機関IARCよりヒトに対して発癌性があると(Group1)勧告されています。

4. 硝酸態窒素

土壌中の無機窒素は、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の3つの形で存在します。有機物が分解されるとまずアンモニア態窒素が生成されますが、土壌中の硝酸菌の作用で亜硝酸態窒素を経て硝酸態窒素にまで変換されます。植物が根から吸収して利用できるのは硝酸態窒素だけですので、窒素固定菌がいない環境では生育できません。これを補うため、窒素肥料の中には硝酸態窒素が大量に含まれています。このような事情から硝酸態窒素を含む肥料が大量に施肥された結果、地下水が硝酸態窒素に汚染されたり、葉物野菜の中に大量の硝酸態窒素が残留するといった環境問題が起こっています。人間を含む動物が硝酸態窒素を大量に摂取すると、体内で亜硝酸態窒素に還元され、これがメトヘモグロビンと結合してメトヘモグロビン血症などの酸素欠乏症を引き起こす問題が指摘されています。

5. 地下水河川や海洋汚染

1997年、農村では地下水の2割以上が硝酸態窒素の環境基準を上回ったと報告されました。汚染は悪化しているので、現在ではもっと基準違反が増えていると思われます。水道原水の20%以上は地下水から供給されているので、水道水さえも危険な水準に近づいてきています。硝酸態窒素は安定性の高い物質なので、浄水場では除去できません。このまま水道原水の汚染が進むと、取水を停止するか、検出値の低い水と混ぜて使うかの、二者択一です。減ることはないので、摂取量は増えていきます。水の硝酸態窒素汚染が始まったのは、化学肥料を用いるようになった大正末期からといわれています。地下水の硝酸態窒素は、約60%が化学肥料由来のものという試算もあるほどで、化学肥料の占める責任は決して小さくありません。また窒素だけでなく、リン酸なども河川や海洋へ流亡し、富栄養価が進んでいます。富栄養価が進むと、微生物が過剰に繁殖し、赤潮などを助長します。飲料水の危険性だけでなく、水産物にまで大きく影響しているのです。

6. 枯渇

肥料の3大要素といわれる窒素・リン酸・カリウムのうち、窒素肥料の大部分はアンモニアが原料で、そのアンモニアは大気中の窒素と水素を高圧下で反応させて作るため窒素という成分だけを見ると無尽蔵に生産できますが、化石燃料等のエネルギーを用いて生成しています。原油高騰が続き、埋蔵量にも限界がある化石燃料を用いるという点では、やはり限りあるものと思わざるを得ません。また、リン酸とカリウムについては、それぞれリン鉱石、カリ鉱石が主原料となっており、その採掘資源の世界的枯渇が叫ばれています。日本農業に用いるリン酸の大部分は中国からの輸入に依存していましたが、中国は日本の10倍以上もの国民の食料を生産していくため、関税や輸出税などを設定するようになってきています。今後は今までのように簡単に輸入し、湯水のように畑に投入することはできなくなるでしょう。

7. 持続可能でない理由

化学肥料を多用すれば、作物が軟弱になったり、土壌の団粒構造を破壊してしまったり、重金属や硝酸態窒素による食毒の危険性にさらされます。また、水産物への影響も深刻です。何より、今後は今までのように多用できなくなってきます。このような状況でも生産性を落とさずに食料を生産するためには、土づくりが必須になってきます。