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・ 大規模有機栽培の展望と可能性

十勝慣行畑作4品(50ha)からの有機転換の15

大規模有機栽培の展望と可能性

 

音更町有機栽培生産者 中川泰一氏

トカプチ株式会社 福居領一

 

講演者紹介

 

<中川泰一氏>

音更町で55町の経営農地すべてを有機農法に取り組んでおり、豆、小麦を主に生産している。

独自の発想と理論により、極めて低いコストで高品質・安定収量を実現させており、有機農法の革新的な技術に取り組んでいる。

 

 

 

 

<トカプチ株式会社>

アグリシステム㈱の関連会社のひとつであり、平成182月設立の農業法人。

現在更別村で65町経営しており、すべて有機農法に取り組んでいる。豆、小麦を主に生産するほかワイン用ブドウ、ルバーブ、キクイモといった作物の生産にも取り組んでいる。

今回の講演ではトカプチを代表して福居領一が行った。

 

 

はじめに 有機農法普及の壁

 

市場での有機農産物の需要は年々高まりを見せており、行政としても有機農法など環境保全型農業の普及に力を入れていく方針を執り始めています。

生産サイドでも有機農法に対する興味や関心は高まりつつあるものの、なかなか実際の取り組みに移す生産者は少なく、十分な普及には至っていない実態があります。

これら有機農法の普及が進まない原因として、有機の生産技術がいまだに確立されていないということが大きい課題として挙げられます。

 今回、ご講演いただいた中川氏は独自の諸技術で、十勝型大規模生産であっても、コストをかけることなく、収量を維持し、高品質な生産ができることを実証されています。

 

中川氏技術の全容

 

中川氏は十勝音更町で豆類、小麦、緑肥の3品目で約55町を経営されており、平成20年から有機JAS認証を取得され、有機農法に取り組んでいます。

特筆すべきこととして、無肥料、無防除、低労働かつ収益率の極めて高い営農を実現されています。

 

 

通常勤務はご本人だけであり、図のように作業上、必要最低限の機械しか所有されていないため、これらに係る経費が極めて低く済ますことができています

 

 

 

 

 

輪作体系は、作物作付の前後に必ず緑肥の作付を挟むことで、畑の地力を維持・増進させており、このことが無肥料栽培を可能にさせています

 

 

 

 

 

 

 

豆栽培

 

播種前と収穫後にロータリーがけによる整地を複数回繰り返すことで、雑草を抑制します。播種は畝間23寸、株間は33cm播種粒は1ヶ所に種を約5粒落とします

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一般的な機械除草は、多様なアタッチメントを用いた、いわゆる「削り」による除草方法をとりますが、この方法は基本的に除草剤の効果を期待した上での方式で、そのまま有機農法に転用し、無尽に生えてくる雑草に対応することは技術的に困難です。そこで、中川氏が考案された方法は、従来の除草カルチを使いつつも、そのアタッチメントを独自に組み換えて使用し、従来の「削り」ではなく、「土寄せ」によって雑草を土に埋めて絶やすという方式をとります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

具体的に見てみましょう。上図のように、豆の発芽と同時期に雑草も発芽してきますが、豆が子葉を展開するまでに初回の「土寄せ」を行います。すると、雑草の幼体は土に埋没して絶えてしまいますが、豆はやがて子葉を展開させつつ、再び発芽してきます。その後も同様に、豆の生育に合せて「土寄せ」を行い、雑草を埋めつつ除草を達成し、豆で畝が塞がるまでの間、約1週間間隔で計57回程度実施していきます。

 

このように豆栽培では雑草問題を克服することができます。結果、無防除でも病害が発生せず、無肥料で300kg/反の収量を上げています。

 

 

小麦栽培

 

小麦も豆と同様に無肥料栽培であるため、緑肥の作付によって地力を維持することが重要となります。

緑肥生育後、ロータリーによる整地によって複数回の緑肥を鋤き込み、小麦播種の準備に入ります。

 

 

 

 十勝における小麦の標準播種時期は9/20前後ですが、中川氏は3週間程度早い8月末から9月初に播種を実施します。

 

有機栽培では農薬防除が行えないため、有機小麦は越冬性が致命的に弱いという問題があり、大きな課題でした。そのため、通常より播種日を早めることによって、越冬前に小麦を繁茂させ、厳しい冬の寒さに耐えうる丈夫な「体」を作ることで、越冬性の克服を期待するものです。左図のように、8/20播種小麦は地上部だけが枯れるものの、芯・根は生きているため、その後の生育に影響を与えることなく茎葉は再展開します。

 

また、小麦播種の際に白クローバの混播を行います。白クローバは草丈が低いため、小麦の生育と収穫作業を阻害しません。小麦収穫後は直ちに鋤き込みを行うのではなく、約一月程度クローバを養生させ、窒素固定による圃場の地力の維持と向上を図ります。

 

このように、無防除でも雪腐れ病や赤カビ病等、病害の影響を受けることがなく栽培を行うことができます。

中川氏は小麦収量を安定して360kg/を上げています。

 

 

 

 

近年の慣行栽培の平均収量と比較すると半分程度の収量ではありますが、有機小麦の精算代金はプレミアの値が付き、また基本的に無肥料、無防除で作業も播種と収穫しか行わないことを考慮すれば、採算が十分に成立しています。

 

 

経営収支

 

重ねて提示してきたように、中川氏の経営は、肥料費が基本的にゼロであり、また必要最低限の機械しか所有していないため、動力費、修繕費が極めて低いのが特徴です。

労働量に関しても、一人で作業を行い、生育期間中であっても土日祝雨は休むという体制をとっています。

 

一方で、安定収量と品質を維持しており、有機栽培のプレミアによって単価の高い精による収入があります。

このように経営の中身を見ますと、売上が2700万円に対し経費が700万円程度しかかかっておらず、利益率で74%も上げていることがわかります。

平均的な十勝畑作生産者の利益率が29%であることを比較すれば、いかに高い水準にあるかが理解できます。

 

 

 

総括

 

        徹底した雑草対策 適宜のロータリーがけとカルチの組み合わせ

→ 決して技術的に困難なものではない!

        休閑緑肥の取り入れによって、地力を維持、向上させる作付体系

        自身の作業体系を見直し、作業の合理化と不要な機械類を所有しない

→ 経費を下げる一番の秘訣

 

中川氏の有機農法体系は高労働、高コストという、有機農法の一般的なイメージの対極に位置し、我々が目指すべき環境保全型・循環型・自然共成型・有機農業の完成したひとつのモデルであるということを、提示できるものと思います。