農産物の種。それもまた、現在では「買う」ことで成り立っているものです。種は作物のエネルギーの源。健康な作物は、健康な種から作られるのです。その種を誰かの手に委ねて良いのか。いつか健康な種が手に入らなくなるかもしれない。そうすれば、健康な作物を育てること自体が困難です。
「自分たちで種を更新していく」。それも私たちのチャレンジのひとつです。
病気の発生や異品種の混入、雑草種の混入が悪とされる採種圃場では、農薬の使用が前提となっており、その散布回数が圃場管理の良し悪しを判断する基準とされています。
さらに、種は「食べ物として」ではなく「種子として」栽培され、食用として栽培されるときより多い量の農薬が使用される傾向があります。採種圃場は栽培指針がより厳しく定められていて、一般圃場では問題にならない病害も、発生してはいけないことと定められているためです(大豆の紫斑病やべと病、小豆の褐斑細菌病、小麦の条班病・黒穂病などの種子伝染病)。
また、病害虫の発生が圃場の2割をこえてはならないと北海道の採種管理指針では定められているため、農薬散布が推奨されていることも大きく影響しています。
しかし、多量の農薬を使って生産されることで、病弱な種子が生産されやすくなるということもあります。
また、採種圃場の土壌環境の悪化も見逃してはいけません。例えば、種芋採種圃場ではそうか病(かさぶた状の病斑が形成される病気。食味や収量への影響はほとんどないものの、見た目が悪くなり,商品価値が損なわれる)が発生していることは珍しくなく、小麦採種圃場でも縞萎縮病(葉の黄化症状や、かすり状のモザイク症状、アントシアンの蓄積により紫色 を帯びる帯紫化症状や株全体の萎縮症状)が発生している事例が多くなってきています。
(左)ジャガイモのそうか病
(右)小麦の縞萎縮病の症状のひとつ
どちらも、土壌環境の劣化を示す病害です。その圃場で作られた種子は生命力が低下しています。このような種子を圃場に蒔くと、天候不順によって病害が発生しやすくなったり、発芽障害を助長したりしてしまいます。つまり、農薬・化学肥料なしでは栽培が困難になるということです。
現在生産されている種子は環境適応力が弱いため、コストをかけて栽培することが前提となります。栽培コストの上昇や不安定な天候状態が続いている現状を考えると様々な対策が難しくなっていくことが想定されます。オーガニック栽培ではなおさら健全な生育を促すことが難しくなっていきます。種子は作物を育てるにあたり、最も大切なものであると考える方も多いなか、現在の種子は農業の未来を担って行けるでしょうか。
健全な種子とは何か、それを残すためにどうしていくべきか、私たちの3つのアイデアを紹介します。
<生命力にあふれている種子>
これから必要とされる種子は、現在流通している種子ではなく、農薬や化学肥料に頼らなくても良い生命力のあふれた種子です。これを生産して流通させていく必要があります。そのためには、慣行栽培の概念から外れたところで育種を考え、播種圃場において、病害が発生しない健全な土が必要であり、その土で化学肥料や農薬を使用せずに健全な種子を生産する必要があります。
私たちは土に多様性を提供する種子、肥料、農薬、病害虫をゼロにする種子「ソイルビルダー種子」を作り出していきたいと考えています。さらにこの種子を販売することで、生産者の肥料農薬のコスト削減にも貢献します。
<自家採種、自家育種の導入>
採種圃場で栽培された種子の問題があらわになってきている今、自家採種の必要性が高まっています。植物は育った環境やストレスの情報を後世につなげていきます。自身の圃場の一部を採種圃場年、自家採種を継続することで、そこで生産される種子は次第にその土地の気候風土に合ったものとなっていき、土壌病害のリスクも軽減することができます。
<シードシェルター 〜固定種を守る〜>
種子法の廃止など、大企業による種子利権の構築がなされようとしています。種子権利を独占されてしまうと生産者にとって大きな不利益につながる可能性があります。また不健全な種子(遺伝子組み換え種子やゲノム編集された種子など)の流通も予想され、健康被害の恐れも想定されます。そうならないようにするためにも、固定種を備蓄し生産者が安心して作物を作れ、生活者が安心して食せるための種子を守る仕組み「シードシェルター」が必要だと考えています。