北欧の小さな国、デンマーク。そこで30年以上暮らす「くらもとさちこ」さんは、デンマークの食と食文化に魅せられ、その魅力を伝える企画や執筆を続けています。アグリシステムの代表である伊藤英拓は、くらもとさんの著書『ロブロの教科書』に出会い、その世界観に導かれるようにして、くらもとさん本人とも出会うことになりました。こうして始まったご縁から、ライ麦やロブロ文化を広める「ロブロの会」が大阪、東京、帯広で開かれています。
光の国 デンマーク
デンマークで1000年以上に渡って食べられているライ麦のパン、それが「RUGBRØD(ロブロ)」です。固形物が食べ始められる乳児期から、幼少期、学校生活のお弁当に、記念日や誕生日などのパーティーに、ロブロはデンマーク人にとって「暮らしの軸」となっているパンとのこと。だから、単なる食事としてのパンだけでなく、文化的背景も合わせて伝えたい、というくらもとさん。「ロブロの会」では、デンマークの暮らしぶりも合わせてお話してくれました。
〜デンマークはこんな国〜
・高福祉高負担国家
デンマークでは、所得税が50%以上、消費税が25%という高い税率! でも、だからこそ社会福祉が維持されているのです。なのでこの税率の高さについて異を唱える国民はいないとのこと。
・人が学ぶことにお金を使う国
何歳からでも、生涯誰もが「学ぶ機会のある国」。国が小さく資源が乏しいデンマークでは、「人にお金を使い、人のエネルギーで産業を生み出す」という方針がとられ、一生学ぶ、という価値観が浸透しているのだとか。くらもとさんが通っていた大学でも様々な年齢の方が学んでいたそうです。
・特別な冬至の日
日本のように四季はなく、冬が半年、残りの半年に春と夏と秋があるデンマーク。冬至を機に日照時間は少しずつ長くなりますが、冬が最も厳しいのは大寒の頃で、そこから春までもまだまだ厳しい季節が続きます。だからこそ、冬至は「厳しい季節を乗り越えられた!」という特別な日。太陽が光を取り戻しエネルギーが満ちていく起点と考えられています。そうした経緯から、冬至は「光のお祭り」なのだそう。
・オーガニックの浸透
20世紀初頭「人間にはタンパク質が必要だから、肉を食べよう!」という風潮の中、デンマークが選んだ政策は、「ライ麦全粒パンと野菜」を食べること。牛や豚の飼育頭数は⅓に減らし、野菜作りに力を入れて来ました。とはいえ、冬の期間が長いので野菜を作る時期は限られています。ライ麦全粒パンは冬期間を乗り越える重要なエネルギー源であると共に、貴重なビタミン・ミネラル源でもあったのです。
ライ麦パンロブロの文化
ライ麦を意味するRUG、パンを意味するBRØDを、くらもとさんなりにカタカナ表記した「ロブロ」は、ライ麦、ライサワー、塩、水だけで作る、シンプルなパン。長時間発酵で旨みが加わり、栄養吸収が良くなります。日本でライ麦パンと聞くと「酸味が強い」イメージですが、ロブロは噛めば噛むほどほんのり甘く、しっとりとした歯ごたえもあるパン。これは発酵がなせる技です。
ロブロの歴史は古く、19世紀半ばあたりの農村時代までは、1ヶ月に一度、ひとつの窯でみんなのロブロを焼いていましたが、その後パン屋ができ、第一次世界大戦中の配給の際に「一本」という規定ができたのだそう。
1ヶ月も保たせるわけですから、その食べ方も時間の経過と共に。
・最初の一週間はそのままスライスして
・乾燥が進んできたら、乾かしてクルトンにしたり、水でふやかしてスープやオイルに入れて
・そぼろ状になったものはヨーグルトにかけたり、ケーキにしたり、料理のアクセントに
デンマーク人の食卓には、昔からロブロがありました。
彩り豊かなスモーブロ
そんな伝統的なパンですが、今「持続可能なパン」として、デンマーク本国でも脚光を集めています。その理由のひとつは健康面への配慮から。
ライ麦の全粒粉を使い、発酵させて作るロブロは
①腸内環境に良い
②生活習慣病の予防になる
③噛む力を育てる
④筋肉をつくる
と、身体に良いことばかり。実際にデンマークでは離乳食の始まる10ヶ月くらいからライ麦全粒粉で作ったロブロを食べ始め、日々の暮らしの中に取り入れられています。
くらもとさんは現在は一週間に一回焼いているそうですが、朝食はロブロにバターやグリーンペーストを付けてシンプルに食べているのだそうです。
そして、ふたつ目の理由は、「スモーブロのルネサンス」。スモーブロレストランだけではなく、街中にあるベーカリーなどでも「スモーブロ」と呼ばれる、ロブロに様々な具材を乗せたものが、クオリティを重視しつつ、かつおしゃれに生まれ変わっているからなのです。
そもそもこの「スモーブロ」自体も150年の歴史があるもの。日常の食事はもちろん、クリスマスや記念日などのパーティーなど特別な日の食事スタイルとしても定着しているのです。くらもとさんは「ロブロが人と人をつないできた」と話してくれました。
とかちロブロの会
2025年5月20日に開かれた「とかちロブロの会」では、デンマークのお話やロブロの試食が。この場で初めてロブロを食べる、という人も多く、生産者、ベーカリーシェフ、一般の方などが集い、それぞれの立場からの意見交換なども行われました。

ロブロクルトンの入ったごぼうのスープ

様々なペーストを塗って食べてみればお気に入りが見つかるかも
左上から
チーズ→そのままで→バター→白いんげんペースト→グリーンペースト(小松菜と黒豆)

ロブロサンド

あまそぼろのスイーツ
ヨーグルトとベリーソース、カカオニブを添えて

デンマークの南ユトランド地方に伝わるお祝いケーキ。
そぼろ状のロブロをケーキ生地に小麦粉代わりに加え、カシスと生クリームをサンドして焼いたスイーツ。カシスの酸味とも相性抜群
アグリシステムとロブロ
アグリシステムでは環境に優しい循環型の農業を目指し、ライ麦栽培を推進する「ライ麦プロジェクト」の一環としてロブロの製造、販売、啓蒙に努めています。
育てて、地球と土に優しいライ麦。独特の風味をもつロブロ。食卓を豊かに彩るロブロサンドやスモーブロ。それぞれの立場から、ロブロを生活に取り入れてみましょう。
・一般の方
ベーカリー風土火水では常時販売。曜日限定でロブロサンドも販売中。
・生産者の方
ライ麦栽培に興味がある方はこちらまでご連絡ください。フィルドマンから直接お話させていただきます。https://www.agrisystem.co.jp/contact/
・実需者の方
ロブロを焼いてみたいという方に向けて、ライ麦粉の販売も行っています。下記よりご注文ください。https://www.agrisystem.co.jp/komugi/raimugipan/
また、各種講習会などの問い合わせは問い合わせフォームからご依頼ください。